この記事は更新から24ヶ月以上経過しているため、最新の情報を別途確認することを推奨いたします。
はじめに
前回の記事はCloud Adoption Framework(以下CAF)に取り掛かる際にはじめに実施することとして以下について記載しました。
①Azureのしくみ、初期概念の理解
②ポートフォリオを確認
③チームを設立する
今回の記事ではCAFのライフサイクルのうち”戦略”について概要を記載いたします。戦略とは事業戦略(ビジネス戦略)のことを指しており、CAFにおいてはその戦略をしっかり文書化してクラウド導入を進めることの大切さが書かれています。
前回同様に全体概要を把握するための内容となっておりますのでその点は予めご了承ください。詳細についてはこちらの公式ドキュメントをご確認ください。
戦略とは
はじめに説明した通り、戦略とは事業戦略(ビジネス戦略)のことを指しています。クラウドを導入することで事業戦略において次のような効果が得られると公式ドキュメントで説明されています。
“クラウドベースのアプローチを使用すると、ビジネスの即応性の向上、コストの削減、市場投入までの時間の短縮、新しい市場への進出が可能になります。”
企業が短期や中長期的に掲げている目標達成のために、CAFでは次のように支援を行っていきます。
- 動機の文書化
クラウド導入の背景ある動機を、主要なステークホルダーから聞き出し記録します。 - ビジネス成果の文書化
クラウド導入によって得られる成果を記載します。 - ビジネスケースの作成
クラウド導入の正当な理由(妥当性)を示したビジネスケースを作成します。 - 最初のプロジェクトを選択
最初に実施するプロジェクトを選択します。
動機の文書化
動機はクラウドに移行する理由です。文書化することでこの後に記載するビジネス成果を生み出すために役立ちます。CAFでは ①重要なビジネスイベント ②移行 ③イノベーション の3つに分類されています。
以下に具体例をこちらから抜粋して記載します。自身の動機を考える際のヒントとなるはずです。
重要なビジネスイベント | ・データセンターの閉鎖 ・合併、買収、売却 ・資本支出の削減 ・ミッション クリティカルなテクノロジのサポートの終了 ・中断の削減と IT の安定性の向上 |
移行 | ・コスト削減 ・内部運用の最適化 ・ビジネスの機敏性の向上 ・新しい技術機能に対する準備 ・市場需要に合わせたスケーリング ・地理的需要に合わせたスケーリング |
イノベーション | ・カスタマー エクスペリエンスとエンゲージメントの向上 ・製品またはサービスの変革 ・新しい製品またはサービスによる市場の混乱 |
ビジネス成果の文書化
クラウドの導入には一定のコストと時間がかかるため、一定の成果を上げなければ成功とは言えません。CAFではこの成果のことをビジネス成果と言います。ビジネス成果は組織により様々ですが、CAFではビジネス成果を次のカテゴリに分け、考えやすいようにヒントが提供されています。
詳細はこちらをご参照ください。各成果の例が記載されており、実際にクラウド(Azure)導入によりどのような成果を出せたのかが確認できます。
財務成果(ファイナンス) | 収益が増加するか、コスト削減できるか |
機敏性成果(アジリティ) | 迅速に市場に投入できるか、プロビジョニングが短い時間でできるか |
到達性成果(リーチ) | グローバル展開が迅速にできるか |
顧客エンゲージメントの成果 | 顧客の要望にそったサービスや不具合改善を迅速にリリースできるか |
パフォーマンス成果 | パフォーマンス向上により機会損失を減らせるか |
持続可能性(サステナビリティ)の目標 | SDGsに貢献しているか など |
ビジネス成果は様々な担当者(財務、マーケティング、営業、人事、経営陣 など)との会話を通じて考えていく必要があります。担当者とは利害関係者(ステークホルダー)にあたります。
実際にビジネス成果を作成するためにCAFで提供されているツールがビジネス成果テンプレートです。ただテンプレートといっても内容は考えなければならない観点と空欄が記載されているだけなので、ステークホルダーを巻き込んだ会話はやはり必須となります。
以下に実際にテンプレートに記載されている、ビジネス成果を考えるために必要な5つの側面をこちらを参考にして記載します。
利害関係者(ステークホルダー) | ・クラウド移行が成功することで最大の利益を得られるのはだれ? ・困難が予想される場合にサポートしてくれる可能性が高いのはだれ? |
ビジネス成果 | ・クラウド移行の価値はなに? ・ステークホルダーはどうビジネスを変えたいと思っている? ・クラウド移行によりビジネスはどんな影響を受ける? |
ビジネス推進者 | ・ビジネスにおける現状の課題は?(クラウド移行における現状の課題) ・予想される将来の状態は? ・目標を達成するために変更が必要なビジネスの機能は? |
KPI | ・クラウド移行(すなわち企業として)の成功を図る指標はなに? ・その後の監視の頻度は? |
機能 | ・クラウド移行のためにどのような技術が必要になる? |
ビジネスケースの作成
クラウド導入が妥当であるかどうかCAFでは投資収益(ROI)を算出して求められると記載されています。しかしながらクラウド導入により、例えば必ずしもコスト削減が可能ではない場合があります。スムーズなクラウド導入のためにはまず次の根拠のない誤解を解消する必要があります。詳細はこちらを参照してください。
- クラウドは常に低コストである
- すべてのものをクラウドに移行する必要がある
- オンプレミス環境のミラーリングは、クラウドでのコスト削減に役立つ
- サーバーのコストが、クラウド移行のビジネスケースを促進する要因になる
- 操業費用モデルは資本支出モデルより好ましい
- クラウドへの移行はスイッチを切り替えるようなものである
ROIは次の数式で求めることができます
意味合いは以下の通りです。
- Initial Investment = 移行固有の初期投資
- Revenue Deltas = 移行固有の収益差分
- Cost Deltas = 移行固有のコスト差分
移行固有の初期投資とは、Azureの利用料です。これは料金計算ツールで見積もることが可能ですが、見積もるためにはAzureに作成するリソースを選択する必要があります。よってAzureに対する理解が求められます。
移行固有の収益差分とは、クラウドの導入によって得られる収益の増分です。ステークホルダーを協力して予測する必要があります。
移行固有のコスト差分とは、クラウド導入により発生する増加または減少の金額です。考慮すべきコスト差分の詳細はこちらを参照してください。
最初のプロジェクトを選択
最初に選択するプロジェクトの前提として戦略に対応している必要があります。また可能であればビジネス成果に向けた最初の一歩である必要もあります。
それを踏まえてCAFでは最初のプロジェクトに求める条件として以下のように記載されています。こちらからの抜粋です。
- このプロジェクトは学習のソースである。
- このプロジェクトは運用環境デプロイにつながる場合があるが、まず間違いなく最初に追加の取り組みが必要になる。
- このプロジェクトの成果は、長期的な運用ソリューションを提供するための一連の明確な要件である。
組織が目標を達成するために一連のプロジェクトがあり、その最初のプロジェクトを選択する条件が上記の通りです。最初のプロジェクトを通じでクラウドを導入するチームは後続のプロジェクトを行うための材料を得る(学習を行う)ようなイメージなので、PoCが適していると考えられます。
おわりに
CAFの戦略について概要を記載しました。本気で取り組む場合には多くの関係者の協力が必要となり難易度が上がってしまいますが、考え方を抑えておくだけでも円滑にプロジェクト進めるために十分に役立つと思っております。
次は計画について記載します。