はじめに
AIを入れるかどうか、という議論から「いくらで、どれだけ役に立つのか」へ。いまはこの視点が重要です。
生成AIの費用は、会話テキストを細かく分けたトークンの消費、AIを動かす専用コンピュータ(GPU)の稼働時間、社内文書検索を賢くするRAG(検索拡張)の更新などで積み上がります。少しの無駄でも、日々の積み重ねで月末の請求が大きくなりがちです。
そこで役に立つのがFinOpsです。まずは“AIならではの費用の増え方”を理解し、支出を成果に結びつける視点を持つところから始めましょう。
まずは“単位あたりの費用”で考える
いきなりコストの総額だけで判断するのは難しいので、小さな物差しに揃えて考えます。
たとえば「1,000トークンあたりの費用」「1回の呼び出し(リクエスト)あたりの費用」「GPUを1時間使う費用」。この三つを軸にすれば、やり方の違いを数字で比較できます。
さらに、業務の成果(役に立つ回答1件や作業時間の短縮1時間など)と結びつければ、コストと成果のバランスを誰でも同じ目線で議論できます。こうした“単位で捉える”姿勢は、FinOps Foundationの展開するAI費用管理の実務ガイドでも基本に据えられています。
参考 : FinOps for AI Overview
設計と運用のひと工夫で、ムダを減らす
使い方の工夫が費用削減には効きます。
チャットの履歴は要約して短く保つ、回答の最大文字数や途中で止める条件を決める、RAGはキャッシュ(使い回し)や差分更新を取り入れる。こうした基本だけでも、不要なトークン消費や無駄な再計算を減らせます。
さらに、軽量なモデルを使う工夫で、応答の質を保ちつつ処理を軽くし、推論の単価を下げられる場合があります。導入時は、品質への影響を必ず確認しましょう。
みんなで同じ“地図”を見るためのルールとデータ
部門をまたいで合意しやすくするには、共通ルールと共通の見方(データ形式)が欠かせません。ルールの例としては、プロダクト名・環境・使っているモデル名などをタグで付けること、開発・検証・本番ごとの上限(クォータ)とアラートを設けること、そして急な費用増(アノマリー)に気づける仕組みを用意すること。見方の例としては、請求・利用のデータを同じ形式にそろえ、部署やサービスが違っても比較しやすくすることです。
2025年版のFinOps Frameworkは、クラウドだけでなくSaaSやデータセンターも対象に含める「Scopes」という考え方を採用しました。扱う範囲をはっきりさせることで、費用の見せ方や責任の分担を決めやすくなります。請求データの共通フォーマット(FOCUS)も更新が進み、共有リソースの費用の割り振りや契約の追跡がわかりやすくなりました。異なるベンダーのデータでも、同じ“地図”の上で議論しやすくなってきています。
コミュニティの動き(FinOps X 2025の要点)
2025年6月2〜5日に米サンディエゴで開かれたFinOps X 2025では、AI、Scopes、FOCUSが大きなテーマでした。
事前ワークショップでもAIを対象にした費用管理が取り上げられ、現場で「どこまでを対象にし、どう測って、どう割り振るか」が具体的に議論されました。クラウド各社はFOCUS対応の拡張やAIを活用した費用管理の自動化を打ち出し、レポート作りから“行動につながる管理”へ進んでいるのが印象的です。
ベンダーやサービスが混在する環境でも、共通言語で比較し、すぐに対策へ動ける基盤が整いつつあると感じた方が多かったのではないでしょうか。
まとめ
AIの費用は複雑に見えますが、やることはシンプルです。
小さな単位で費用をそろえて比較する。設計と運用のひと工夫でムダを減らす。共通ルールと同じ見方で、部署をまたいだ合意を速くする。
不確実性が高いAIだからこそ、FinOpsはブレーキではなく目的地に早く安全に着くための道路標識になります。
まずは「1,000トークン・1リクエスト・GPU1時間」という三つの物差しを社内の成果指標に結びつけ、いまの使い方を見える化してみてください。
次の改善の一手が、すぐ見えてきます。
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